私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『若い読者のための短編小説案内』村上春樹

2005-12-27 22:34:36 | NF・エッセイ・詩歌等


村上春樹が、第三の新人をはじめとする戦後作家の短編を読み解いた読書案内。取り上げられている作家は吉行淳之介、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三、丸谷才一、長谷川四郎で、彼らの短編が一つずつ選ばれて解説されている。


僕がこの中で読んだことのある短編は安岡章太郎「ガラスの靴」のみである。ついでに言うと、読んだことのある作家自体、安岡と吉行の二名しかいない。長谷川四郎に至っては寡聞にして名前すら聞いた事が無かった。

しかし本書はその程度の知識しか持っていなくても充分に楽しめる内容に仕上がっている。多分その理由は村上春樹が他人の小説を解説することによって、自身の創作スタイルを明かしているからだと思う。それが実に刺激的でかなり読み応えがある。

村上春樹の読み方は非常に深い。
もちろんそれは何回もその作品を読んでいるから当然と言えば当然だが、その視点の中には創作者だから見える世界があると強く思った。創作者だからこそ見える深みがある。
例えば文章の下手さや硬さが小説的効果を生み出していることを丁寧に指摘したり、メタファーの使い方に彼なりの考察を加えたりしている。物語の乱れに作者自身の迷いを読み取ったり、その短編が持っているテーマ性から作家がなぜそういう方向に進まざるを得なかったかを、同じ創作者の視点から推察している。

もちろん僕にはこれほど深い読み方はできないわけだけど、作家という人種がどのようなことを考え物語を構築しているかを知ることができ、新たな視点が広がった気がした。
普段淡々と読んでいるだけの物語も実は深いテーマ性が隠されているのかもしれない。そう考えると新鮮な思いを抱く。
読書好きだったらこれは一読の価値はあるだろう。小説の読み方に違ったアプローチもあることを教えてくれる。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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はじめまして (ぽんすけ)
2006-04-11 17:04:47
ずいぶんと前にココに辿り着いて、この本を読もうと思いながらなかなか機会がなく・・・とりあえず私のPCにブックマークだけしておき、なんかそのままになってました。



今日、『若い読者のための~』を読み終えました。きっかけは吉行淳之介です。私の最も影響を受けた作家が彼で、村上春樹がどう書いているか気になったものですから。



作家ってのは面白い解釈をするものだなぁと感心しながら読んでいました。これからもよろしく。
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コメントありがとうございます (くぁ)
2006-04-11 20:14:32
ぽんすけさん



コメントありがとうございます。

本を読むきっかけになったのだったらうれしいです。



吉行淳之介に関してはそんなにまともに読んだことなかったけど、この本を読んで少し読んでみようかなと思いました。まだ読んでないけど。

これからもよろしく。
返信する

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